株式会社アサツーディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部 シニアプランナー 若者プロジェクトリーダー
藤本耕平 様
平成25年10月10日(木)、株式会社ニチイ学館本社ビルにて「平成25年度第2回能力開発カレッジ」を開催しました。
講師として株式会社アサツーディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部 シニアプランナー/若者プロジェクトリーダー 藤本耕平氏を迎え、若者と密に向き合うことで導き出した「若者世代の生活意識」や「教育事業における若者へのアプローチ方法」を学ぶセミナーの模様を2回にわたってレポートします。
ゆとり世代の実態と「ワカスタ」について
今日は若者をターゲットにしたマーケティング業務から蓄積した知見を「ゆとり世代の実態と彼らを動かすポイント」をテーマにご紹介します。
まずは「ワカスタ」について簡単に。
私はアサツーディー・ケイ(以下ADK)という広告代理店のマーケティングセクションに所属しています。
飲料とか化粧品、トイレタリー、金融など、いろいろなカテゴリのマーケティングを担当し、どの分野というよりは若者全般に強いという意識で仕事をしています。
いろいろな仕事の中で、若者に特化した研究も同時に進めています。
その中で、4年くらい前から「ADK若者プロジェクト」という、若者を研究する組織を立ち上げました。
その武器になっているのが「ワカスタ」です。
なぜADKが若者に注力するのか。そこには、若者が広告やマスメディアに影響されなくなってきている、という背景があります。
「若者に広告が効かない」とか、「なかなか商品を買ってくれない」といった問題を解決できるような部署を作りたいというのが一つ。
もう一つは、若者は一度心をつかんでしまうと、逆にいい顧客になるというところ。
彼らは口コミの波及力が凄く、勢いとスピードを持って情報を伝えてくれるという性質を持ちます。
彼ら自身が情報発信者となってくれるのです。
では、若者をどのように分析しているのかを紹介します。
私は「若者と密に向きあう」というスタンスを大事にしています。
若者の生活の中に飛び込んで、そこでいろいろな発見をしていくというスタンスが効率的、効果的だと考えています。
そこで立ち上げたのが「ADK若者スタジオ」通称「ワカスタ」という組織です。
ここでは、若者たち40人くらいのメンバーが、自分たち自身で若者を分析しています。
これまでのグループインタビューなど受け身の調査スタイルではなく、彼らが能動的に自分たちを分析していくという新しい試みです。
メンバーは「意識の高い学生」のみで構成しています。
NPO団体を高校生から立ち上げて代表している人とか、ビジネスコンテストで優勝した人など意識の高い人だけを集めています。
やはりマーケティング上、俯瞰で見るということが大事なので、マスを理解するために必要なメンバー構成になっています。
彼らと密に向き合い、分析する中で見えてきた発見があります。
例えば「ヨッ友」という言葉を聞いたことがありますか?
「ヨッ友」とは「ヨッと挨拶するくらいの友だち」。
他にも「いつめん」、「にこいち」、「BFF」という言葉があり、意味はそれぞれ、「いつものメンバー」、「2個で1個(2人で1人)ほどの親友」、「ベストフレンドフォーエバー」の略称です。
全てが友達をクラスター分けする言葉であり、私は「その行為自体が彼らならではのものだ」と分析しました。
今の若者たちは「友達の概念」が広がっています。
例えば、昔は高校を卒業すれば、高校時代の友人は「旧友」でした。
しかし、彼らは高校を卒業してもTwitterやFacebookでずっと友達関係が続きます。
やりとりをしようと思えば、LINEなどですぐ連絡が取れます。
つまり、生活の中に友達が累積、蓄積していって、どんどんと増えていくのです。
そこで、彼らは無意識にどの友達が一番大事なのか、優先順位を付けていくのではないでしょうか。
このように、彼らと話しながら、彼らの価値観、意識を深掘りしていくのが今の「ワカスタ」、ADK若者プロジェクトです。
ゆとり世代の価値観を解くキーワード「自分ものさし」
ゆとり世代の生活意識と価値観を2つのキーワードで紹介します。
まず、「ゆとり世代」というのはどのような人達かというと、1992年に行われた小学校指導要領の改訂、2002年にスタートした「ゆとり教育」の影響を大きく受けた、18~26歳のグループです。
今の18歳がゆとり世代の中でも一番のエリートコースです。
まず小学校入学した2002年に指導要領が改定されました。
中学の時にはもうiPhoneが登場していて、スマートフォンも普及し始め、デジタルネイティブと言われる世代です。
そんな「ゆとり世代」がどういう生活の価値観を持っているのか。
キーワードの一つが「自分ものさし」です。
昔は世の中で良いとされているものを目標に置く風潮がありました。
しかし、今の若者は世間の評価はどうでも良く、自分の価値観で善し悪しを判断します。
世の中で起こっている現象として、具体的な事例の話をします。
一つは数年前から言われている「ジェンダーフリー」という言葉。
例えば、「男でもスイーツ食べていいよね」という考え方です。
また、少年漫画の「鋼の錬金術師」が女性の人気No.1コミックになるなど、若者たちは「自分ものさし」によって、世間の価値観から感性を解放しているのです。
しかし、彼らは「世の中の常識を気にしない」という前提があるものの、「自分の周りの目」には気を使います。
周りの友達からKY(空気が読めない)と言われるのを嫌い、そこに細心の注意を払っています。
もう一つの事例はWebの世界の中。今の若者は、周りの目を気にしながらも、器用に自分を解放しています。
しかし彼らは、周りの目を気にせずに自分の感性を解放できる場をWebの中に求めているのです。
彼らの多くはSNSでメインアカウントの他に、趣味のアカウント「趣味アカ」を持ち、自らキャラクターを使い分けて交流しています。
以上が「自分ものさし」というキーワードで分析したゆとり世代の価値観です。
二つ目のキーワード「つながりマスター」
ゆとり世代の生活意識と価値観、二つ目のキーワードは「つながりマスター」という言葉です。
最近「つながり」という言葉をよく聞くと思いますが、なぜ「つながり」が世の中で騒がれているのか、その話も含めながら説明します。
昔と今の大きな違いには「人と接する機会の違い」が挙げられると思います。
昔は、人と人は支えあいながら生活していました。
しかし、今は自分一人でも生きていける時代です。
そこで「つながり」の意識は変わっていったのではないでしょうか。
つまり、人とつながることが難しくなって来た今だからこそ、人は「つながり」を求めているのです。
若者も当然「つながり」を求めています。
しかし同時に「うまくつながらなければ意味がない」という考えも併せ持っています。
そこで彼らは、つながるためのテクニックを多く編み出しました。
一つは先ほど言った「趣味アカ」。
SNSで自分のキャラクターをうまく使い分けています。
もう一つは「ネタの共有」。
彼らはつながるための「ネタ」を探して生活しています。
「ネタ」を見つけてコミュニティの中で提示すると、皆が集まり、つながりが強固になり、一体感が生まれるのです。
また、彼らは常に不安と闘っています。
「つながり」を求めながら、同時に「本当につながっているのか」をいつも確認し、つながりから外れないための工夫をしています。
外されないための工夫としては、ファッションを「ハズさない」、人と大きく違わないということがキーワードになります。
ただ、自分の感性は開放したいので、そのバランスに気を配っています。
そんな不安と闘い続け、やはり彼らは疲れています。
SNS疲れやつながり疲れ、非常に疲弊し、なるべく省エネする工夫をしています。
「ありがとう」くらいならLINEのスタンプ1つで済ませるなど、簡略化が進んでいます。
また、つながりの最小化という考え方があり、「つながりのアップデート」を簡単に行います。
彼らは自分と心理的に距離が遠くなった人を、つながりから簡単に消去できます。
例えば、今の若者はTwitterで1週間に1回フォローを掃除し、自分と関係がなく、興味がない人をどんどんと切っていきます。
情報量が増え過ぎてしまうので、なるべくシンプルにしたいという考えがあるようです。
そんなつながりをテクニックとしてマスターしているのが彼らなのです。
「やりたいことだけを選ぶ」自分の感性に正直な学習意識
ゆとり世代の教育と学習意識について掘り下げていこうと思います。
まず、「ゆとり教育とは」という部分のおさらいです。
ゆとり教育の目標は、自分の意見を持ち、それを表現できる子を増やしていくことでした。
1992年から始まった個性尊重教育がさらにブラッシュアップされ、2002年に個性尊重教育の極みに進化。
完全週休2日制、絶対評価制度が導入され、『生きる力』の育成を目指すような指導要領に変化していきました。
ゆとり教育とはエリート教育だという人もいます。
先生が教えるという立場ではなく、個々の能力を引き出してあげる「おもてなし」の教育です。
一言でいうと「いたれりつくせり」だったわけです。
学びに対する考え方で、若者が口を揃えて言うのが「好きなジャンルは大好き」。
自分のやりたいことに没頭するのが大好きなのです。
「やらされるのは嫌い」、「自分が学びたいと思ったものだけを学びたい」というのが彼らの学びのスタイルです。
彼らが勉強する意味は、自分にメリットがあるか、もしくは大好きか、どちらかです。
未来に対する願望・欲望はどう考えているのか。彼らは「出世は目標にしていない」、「地位・名声は意味がない」と考えています。
「偉い」よりも「自分の幸せ」を大事にして、どんなに偉くなれても自分の好きじゃない仕事はしたくないという価値観があります。
つまり「地位・名声よりも、自分が楽しいかが大事」なのです。
ゆとり世代の特徴とは、「自分の感性に正直」で自分の好きなものだけに囲まれて生活したいと考え、「競争を嫌い」他人と比較することに興味がありません。
また「いたれりつくせりの学校環境」で怒られずに育ち、「怒られ慣れておらず」傷つきやすい側面も持ちます。
「失敗を恐れて」確実ではないチャレンジはしようとしません。
しかし「成長願望は強く」安心感を得るために自分を成長させたいという思いを持ちます。
仕事もただ時間を浪費するよりも、「その仕事が自分の身になっているかどうか」を強く考えています。
「誰トク」が導くゆとり世代の攻略ポイント
そんなゆとり世代の彼らを、教育の分野からどのようにアプローチをしていくべきなのか。
一つの方向性として「誰トク」という、効率性を追求する合理主義の考え方が攻略ポイントになるのではないでしょうか。
「誰トク」とは、若者がよく使う日常用語で、誰にとってトクなモノかを問う言葉です。
無駄な情報を彼らに与えると、「それ誰トクの情報っすか?と簡単にスルーされてしまいます。
彼らは教育にもシビアに「誰トク」を求めてきます。
「この勉強、資格、学習って、本当に自分のトクになるのか」を明確に提示できれば、糸口になると思います。
では、どんな「誰トク」を提示すればいいのでしょう。
大手塾に通った若者から話を聞くと、「人が多くて刺激を受ける」、「一緒になって頑張れる仲間と出会える」と、授業の内容ではなく、人とのつながりにメリット「誰トク」を感じている人が多いようです。
そもそも勉強に対するモチベーションが高くない世代であり、勉強に価値を置いていない彼らにとっての「誰トク」とは、「一緒に頑張り合える仲間と出会える」こと。
彼らには「誰トク」と「つながり」の両方の面から、同じ目標を持ち、モチベーションを上げてくれる仲間との出会いの場が必要なのです。
そういう価値観の提供が、今後発展していくのではないでしょうか。
講演者プロフィール
一橋大学出身。2002年ADK入社。
12年間マーケティング業務に従事。トイレタリー業界、金融業界、飲料業界などジャンルを問わず様々な企業のコミュニケーション戦略、商品開発などに携わってきた。
2010年から若者研究を開始。若者研究をテーマに、セミナー講師、大学非常勤講師、雑誌記事執筆などを務める。
2012年から「ADK若者スタジオ(通称:ワカスタ)」を立ち上げる。「ワカスタ」とは“意識の高い大学生”で構成する、若者が若者を研究するマーケッター集団。
現在、NPO団体代表を務める学生や、起業している学生、ビジネスコンテストで優勝した学生など総勢60名程度が在籍している。
月に2回程度、ワークショップを主体とした活動を実施。企業と一緒に、新商品開発やキャンペーンの開発を行っている。