輸出入手続を行うプロフェッショナルの国家資格「通関士」。通関士の仕事内容や試験傾向、活躍する人材について、マウンハーフジャパン代表取締役 片山 立志様に伺いました。
通関士講座を立ち上げるまで。
通関士は、輸出入の際に税関の許可をもらうための手続きをする専門家です。
輸入の際には、税金が発生しますから輸入税の専門家とも言えます。
今でこそ、通関士の資格はよく知られていますが、わたしが専門学校で通関士や貿易実務を教えはじめた頃はまだ参考書は、ほとんどありませんでした。
宅建や行政書士などの参考書はたくさんあったのですが、通関士だけはなぜかどこにも売っていませんでした。ですから自分で作るしかなかったのです。
銀行出身だった私は、その頃、専門学校で外国為替や貿易実務などを教えていました。
ある時、通関士の講師をすることになり、同じ講師であった税関OBの方にいろいろと教わりながらレジュメを作成したのが参考書づくりのはじまりです。
これを基に、「通関士一発合格の決め手」という著書を出版しました。幸運にも、重版、重版で、かなり売れました。
「通関士」を世に広めた本だと自負しています。さらには、本格的な参考書として「通関士試験合格ハンドブック」を出版しテキストとして使用しました。
この本は版を重ね、今でも年度版で出版されています。
その後、マウンハーフジャパンを設立し、独立。最初は専門学校の非常勤講師を兼務しながら、運営しました。
そして運よくその学校の隣に貸し教室があったのでそこを利用しました。
それから通関士ブームが、5~6年、もっと10年くらい続いたでしょうか。
通関士が一般的になっていったのです。
輸出入に関わる仕事なので、責任も重大な仕事です。
通関士の資格というのは、ドメステッィクな資格です。
日本の税関に対しての手続きを行う資格ですから、海外でそのまま活かせるわけではありません。
日本国内だけに限られた資格ですが、試験科目の法律は、条約等と密接な関係があり他の国の規制と共通しているものもあります。
また、この試験は、国籍に関係なく受験できます。
実際、中国の留学生も合格しています。
もっともアメリカの場合、アメリカの国籍がないと資格を取得することはできません。
仕事が国益と密接にかかわっているからでしょう。
通関士は、通関業者に属し税関長に提出するいろいろな書類の審査をします。
審査をして問題がなければ、NACCS(ナックス)上で申告内容などを審査したというコードを入れます。
これは通関業法という法律によって通関業者に義務づけられています。
この審査が通関士固有の業務です。
このように通関業務の適正な運営に通関士は寄与しているのです。
その結果適正通関、迅速通関に役立っているわけです。
輸出入に関わる仕事ですから、神経も使います。
またかなり責任のある仕事だと言えるでしょう
試験は実務科目に重点が置かれ、難易度が増しています。
現在、通関士の資格取得は難しくなっています。
税法関係は半年か一年頑張って勉強すれば合格点に達しますが、実務科目はやはり慣れていないと難しい。
昔に比べ、実務科目に重点を置いた試験になっていますので、通関士試験をパスするのはそう簡単ではありません。
実務に関する試験の時間は1時間半ぐらいと短いですし、予期せぬ問題が出題されることもあります。
合格率は、平成23年度は9.9%、平成22年度は9.8%、平成21年度は7.8%。
法律系の試験の中ではまだやさしい方とも言えますが…。
今では法律系の資格は、そのほとんどが合格率10%をきっています。
資格取得後の就職に関してですが、たとえば通関業者の場合ですと目立った募集はしていません。
さらに「通関士資格取得者募集!」というかたちではめったに出ませんので目につきにくいといえます。
通関業者の場合は資格を持っていて当然ですが、メーカーの場合ですと、社内に通関士資格を持っている社員がいると役立つことから、資格取得が有利に働くこともあります。
メーカーや金融機関ですと、みなさん資格をお持ちじゃないので、学生のうちに通関士の資格を取得しておくと一つのアピールにもなります。
受講される方の傾向について
受講される方の動機は、通関士になりたいに加え、貿易実務をやりたいというものもあります。
受講生の内訳は、大学生の数はかなり減り、30~40代の通関業者や運送業者、倉庫業者にお勤めの中堅層が、通関士の資格を取得されるケースが増えています。
昔はほとんどが学生、20代前半の方が多かったのですが、現在は仕事に直結している方が受講されることが多くなっています。
大学生の場合は就職のために受けています。大学生が試験に受かれば比較的就職がしやすくなると思います。
ただ、本当に必要とされているのは実際に実務をされている方ですので、そのような発想から実務科目が難しくなっています。
お勤めの方は実務経験があるのでイメージしやすいと思いますが、実務の内容と試験の内容では違う所も多く、実際に実務をされている方でも、まったくゼロの状態から勉強していただく方がよいかと思います。
例えば試験科目である関税法は船舶による貿易かつ、マニュアルによる手続きを前提として規定されているからです。
しかし、実務は航空貨物の場合もありますし、NACCSという電子情報処理組織を利用して手続きが行われているので、当然一致しないものも出てきます。
さらに、実務科目には暗記を避けて通れません。たとえば、この品物は何類に属するかを単語帳みたいにして覚えないといけないわけです。
「アイスクリームは21類」というように。
ただ、過去に出たものはすべて覚えてもらいますが、すべて覚えたからといっても必ずそれが試験に出るとは限りません。
覚えずに勘を働かせて答えるというのははずれるものです。
そうすると、もう1年ということになりますから大変です。
いずれにせよ、実務経験のある方もない方もゼロから勉強する覚悟で学ばれるのがよいと思います。
実務ができる通関士が求められています。
通関士試験の合格率が30%ぐらいだった時代には、繰り返し同じような実務の問題が出題されていましたが、現在はまったく新しい問題が多く出題され、難易度が増しています。
たとえば、輸出入申告に係る問題では、農水産から出るのか工業製品から出るのか、また、どのような契約形態を前提として出題されるのかわかりません。
通関士試験合格者は、法律を知っているだけでは、意味がありません。
実務ができで初めてその価値が出るのです。
まさに通関士試験は、法律知識と共に実務能力をはかる試験といえるでしょう。法律の方は、今でも過去の問題を解いていれば対応できるというやり方です。
だけど、実務の方はそうではなくなっています。
不確実なので、過去問を解けるようになったからといって受かるものではありません。
実務能力を付けなければなりません。
ところで、通関士は、通関業者に属する権威ある専門家です。
そういう中で本来あるべき姿というのは、やはり通関に係るコンプライアンス管理とセキュリティ管理を間違いなく行うことです。
通関士は、通関業者における最終的なチェック機能を担っているということです。
通関士の審査を受ければ、まず間違いはない、これが姿です。
もちろん、その後に税関がいますけれども。通関士の審査を受ければ、大丈夫だというくらいにならないといけません。
もう、お分かりになったと思いますが、通関士は、コンプライアンス管理とセキュリティ管理の専門家で、通関業者の最終チェック機能を担っている専門家だといえます。
このような重責である通関士になるための通関士試験の実務問題が難化する傾向にあるのは、当然のことでしょう。
貿易の全体像に興味のある方には他の検定への広がりも。
通関士は、通関関連法規を、勉強する資格です。
つまり、通関手続きに関する法規、関税の確定、徴収、納付などの税法を深く掘り下げて勉強します。
一方、貿易実務というのは、貿易をする品物を外国に探しに行く、そこで資料を集める、話を聞くなど、要するにマーケティング活動から、契約、貨物の受け取りなど、一連の流れや、全体を勉強します。
「貿易実務検定(R)」試験は、通関士の勉強を直接するというよりは、全体を見るために重要な資格だと言えます。
通関士の場合は、国際売買契約書、運送証券などの貿易書類の勉強はまず必要ありません。
通関用インボイスを読む程度です。
貿易書類の詳細な学習は、「貿易実務検定(R)」の方で必要です。
「マーケティング・ビジネス検定(R)」というのは、実は「貿易実務検定®」のマーケティング科目から出てきたもので、現在は、全く貿易とは関連しない独立した検定試験になっています。
例えば、広告会社さんなどが研修を受けたい、社員に受けさせたいという事例も最近は出てきています。
我々の業界でもPRの実務というものがあるのですが、PRの実務の方が、実はマーケティングをわかっていないといけなかったりします。
企業のマーケティング活動の一環、企業としての経営方針の一環ということを理解する意味でも、マーケティングを学ぶ必要があると思います。
※貿易実務検定(R)とマーケティング・ビジネス検定(R)は、株式会社マウンハーフジャパンの登録商標です。
求職者の就職支援や、貿易関連の専門的なセミナーも開催しています。
求職者支援訓練相談センターでは、求職中の方に対して貿易実務や、マーケティングなどの勉強をしていくための適性やキャリアの相談を受けたり、いろいろな職業支援や、就職支援を行っています。
さらに、貿易関連の単発のビジネスセミナーも定期的に開催。
たとえば、専門家に来ていただき、安全保障貿易をテーマにしたセミナーを開き、安全保障貿易の問題をお話いただいたり、あるいは船積書類の見方であるとかきわめて実務的なことを実務家の方に詳しく話していただくなど、そのようなことも行っています。
スキルアップというのは、今自分がしている仕事のスキルをアップさせるということ。
経験と勘に頼って仕事をし、それですべてを済ませる時代ではないということです。
自分のしている仕事を体系づけて、全体を知ることが大事です。
自分の専門の仕事を、さらに奥深く研究してみることも大切です。そうやって力をつけた人でないと、これからの時代は生き残れないと言えます。
ですから、社会人の方の場合、今ある仕事において、経験と勘だけに頼っていてはいけません。
今している仕事をベースとして、さらにスキルアップさせること。
より自分の仕事を深めていくことが重要になると思います。
豊かな社会人生活を送っていただくために、皆様のスキルアップに貢献したいと第一に考えています。
私たちが教育サービスを提供する上で大切にしていることは、受講生のスキルアップに貢献するということです。
貿易実務検定を取ると、転職に有利だという言い方はしないようにしています。
その理由は、やはりスキルアップが大切だと考えるからです。
スキルアップのお手伝いをし、豊かな社会人生活を送っていただきたいと。
豊かというのは、お金だけではなく精神的にも余裕がないと、自信がもてないわけです。
そのお手伝いができる会社であろうとしています。
学ぶということは、スキルアップをするということ。人生を豊かにすることです。
民間教育事業者というと公的でない、要するに支援訓練をしていても、残念なことに儲けのためにやっていると思われることもあります。
もちろん民間の教育事業者は利益を出さなければ、これは責任を果たしていないことになりますから、適正な利益を出しつつも社会貢献をしていくことが大切です。
学校法人ではなく株式会社ですから、株式会社というのは公益法人と違って利益を出すのが仕組みです。
では、株式会社は社会貢献ができないのか?
実は、NPO法人などでの社会貢献も大変重要ですが、株式会社での社会貢献も、これからはさらに重要になってくるのではないでしょうか。
社会貢献には資金が必要になります。ですから、そのために資金を利益の中から出していくと。
それができるのは、やはり株式会社だと思います。
プロフィール
わたしたちマウンハーフジャパンは、「企業研修・セミナー実施」「通信ラーニングの実施」「人事教育訓練の企画・立案」「日本貿易実務検定協会の運営」「国際実務マーケティング協会の運営」「出版事業」「有料職業紹介事業」「一般労働者派遣事業」を行っています。
通関士試験合格のためのノウハウには定評があり、「マウンハーフ通関士合格セミナー」を開校しています。
「マウンハーフ通関士合格セミナー」は、通関士試験受験界の第一人者、片山立志のスクールです。
片山立志は、1952年東京都生まれ。東京都民銀行を経て、現在、株式会社マウンハーフジャパン代表取締役、日本貿易実務検定協会理事長。金融法学会会員。
嘉悦大学経営経済学部非常勤講師、早稲田大学EX非常勤講師、日本経済新聞社日経セミナー講師などを務めています。
主な著書・監修書は「通関士試験合格ハンドブック」「通関士試験テーマ別問題集」「通関士試験実践トレーニング」「図解・輸出と輸入がよくわかる本」「図解 貿易実務ハンドブック」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター 刊)「グローバルマーケティング」(税務経理協会 刊)などがあります。
★マウンハーフジャパン ホームページ
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