会社が推進する柔軟な働き方とパラレルキャリア

法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴 様
さくらインターネット株式会社 人事部 マネージャー 清水 能子 様



(2017年7月掲載)

平成29年6月28日(水)、日本経済新聞社・日経BP社主催による「Human Capital2017」にて、セミナー「会社が推進する柔軟な働き方とパラレルキャリア」を開催しました。 法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴様、さくらインターネット株式会社 人事部 マネージャー 清水 能子様にご講演頂きました。 後半は石山様を進行役に、清水様とパネルディスカッションを行いました。

働き方改革は、組織文化のなせる業

石山
只今ご紹介いただきました法政大学の石山です。今日はよろしくお願いいたします。
本日は、非常に多数お越しいただきありがとうございます。みなさん会社で柔軟な働き方やパラレルキャリアを推進するということはどういうことだろうということで、非常にご関心が高いのかなと感じております。今日は、私の方で前振りで10分ほどお話をさせていただいてから、その後で皆さんお聞きになりたいと思っているさくらインターネットさんのお話を20分させていただきたいと思っています。本当はもっと時間の余裕があれば、会場からも質問をとりたいのですけれども、今日は多数お越しいただいて、時間の関係もありますので、最後の10分は私の方からさくらインターネットの清水さんの方に質問するという形で進めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

最初になんですが、パラレルキャリアという言葉は、ちょっと耳慣れないかもしれないですが、最近よく聞くようになっている。これはどういうことかと言いますと、もともとドラッカーが言い出したことなんですね。ドラッカーと言いますと、マネジメントで有名だと思いますけれど、もう一つ有名なものが知識労働ということですね。知識労働者、これからの社会は肉体労働だけでなく知識労働が盛んになっていくということですけれど、知識労働者とはどういうことかと言いますと、
私、今52歳ですけれども、52歳なので肉体的には頂点を過ぎているということで、この前テニスやったら左ひざが痛んでしまって動けなくなったりしたんですけれども、肉体労働オンリーだと長く働けないかもしれないと、ただパソコンで働くとなると70になっても、80になっても働けるかもしれないということですが、ところが会社人生は定年で、60や65で終わりかもしれない。となってくると知識労働者の方が会社の寿命より長生きになったのです。そういう世界でどう生きていきますかということで、ドラッカーが考えたのは、だったら人生二つやったらいいじゃない、週40時間本業で働いたら、週10時間は教会の運営の手伝いをしたり、ガールスカウトの運営の手伝いをした方が人生豊かになるよということなのですね。なので、パラレルキャリアという言葉は最近副業ということで使われたりしますが、副業も含まれますし、場合によってはそれ以外の社会活動全般も含まれる。社会人大学院も含まれるということですが、今の働き方改革の中で経産省等の色々な報告書の中でも、もっと副業やってもいいんじゃないかというようなお話が出ていますけれども、実際にそれだけ盛り上げっている中で多くの企業がそう思っているかというと、色々な調査をやりますと8割の企業、経営側としては、副業何のメリットあるのというようなことが実態でございます。これはいくつか理由があると思いますが、労働時間の問題、安全配慮の問題、情報漏洩の問題、競合で働く問題ということが気になっているということなんですが、ただ私が思いますのは、確かにそれは問題かもしれない、でもそれってやり方次第でいくらでも工夫できるし、あえてそれでも、それが問題となっているのは、実は本当のところはそれじゃなくて、なんとなく曖昧に社員が忠誠を尽くさない、そんなのありなの、そういう考えが実はあるのではないかと感じるところです。

そういった中で、実際に働き方改革をどやっていくのかという時に、
制度改革さえすればうまくいくとなってしまうと、それでいいのかなとやや不安なところです。むしろ本当は働き方改革を実現するような組織文化を変えなければいけないのではないかというような気がいたします。

実際に去年JAD提供のセミナーがあり二チイ学館さん出ていただきましたが、ニチイ学館さんは、実は7割女性管理職比率あるんですね。役員までかなり、全般的にすべての層で女性管理職比率が高いですけども、制度で縛っている訳ではありません。企業文化としてそうなっているということで、支店長の方が非常に声かけをして「あなた参観日に行かなくて大丈夫なの」という声かけをしたり、或いは今で言うと配偶者が転勤する時に、そこでやめてしまうとなんだから制度でやろうという、これも先進的と思うんですけれども、ニチイ学館さん昔から組織文化でそうなっているんですね。支店長がすごくよく見ていて、そういう方がいると転勤先の支店に「今度夫が転勤する人が辞めざるを得ない状況になってしまう。非常に優秀なんで是非とってください。」という。そうすると転勤先の支店長は「あなたが言うなら取りますよ。」という文化が自然にできているということですね。

或いは、福光屋という会社の社長と、去年金沢のセミナーでパネルディスカッションをやりましたが、こちらの会社は経営的に日本酒市場が停滞していた中で、女性に絞ろうと、女性のお客様に絞ろうとなっていたら、日本酒は今非常に、この福光屋さん売れているんですけれども、企業文化が自然に変わっていったということですね。非常に女性も働きやすい透明な実力主義の企業文化に変わっていったのですけれど、セミナーの時の最後社長が「働き方のためには社員のライフデザインを優先するのが当たり前でしょ」と言い切っちゃう。やっぱりトップがそこまで言い切ると変わっていくのかなと。或いは、一緒に出たセミナーに共和電機工業さんという製造業の会社ですけども、製造業だと女性活躍に課題があるというようなことを言われたりします。こちらも制度で縛るというよりは、月に1回の面談で、むしろ心配事ありませんかと人事部の人が社員にきめ細かく聞いていくことで、その話を聞いて組織文化が変わっていったと。だからいろんな提案が自然と出て、子供の育児だけでなく孫の育児もやりたいと孫サポート制度ができたり、これも制度というよりは文化のなせる業ではないかと思う訳ですね。

ところが文化って非常に難しいですよね。去年もニチイ学館さんのセミナーで集まった皆様にアンケートをとっていただいたのですけれども、組織文化についてお聞きしたところ非常に厳しい結果が出ています。例えば、残業をする人より残業時間を削減する人の方が称えられる、6.6%。お互いを誉めあう文化がある、9.8%。管理職が部下のライフイベントに関心を持っている、11.5%。
去年のJADさんのセミナーに集まった皆様ですから、組織文化の変革にご関心がある企業であると思うのですが、実際のところ文化はこんなに難しいのではないかというところがあります。

なので、働き方改革は女性だけが活躍する文化ではないし、誰もが働きやすい文化ではないかと。でも、そのような文化は、色々組織プロジェクトをつくったり、色々工夫していかなくてはいけないですけれども、一朝一夕ではできないということですけれども、今日これからお話いただくさくらインターネットさんは、まさに制度ではなくて文化自体の変革に取り組まれている企業様ですので、是非皆様ご参考にしていただければと思います。ではさくらインターネットさんのお話移って参りたいと思います。

さくらインターネットの働き方と文化、制度、風土

清水
さくらインターネットの清水と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。こちらにロゴがありますが、『さぶりこ』というものが私たちの働き方を総称する名前で付けているものになりまして、これも社内で公募をして社員から出てきたものを採用して働き方の総称ということで使っております。
今日はこのお話をメインにしながら、さくらインターネットの働き方と文化、制度、風土というところのお話をさせていただきたいと思っております。

本日お話したいことは3点でして、柔軟な働き方の実現に向けて取り組んだ目的、目指していること、
パラレルキャリアというキーワードでどんな事例があるのかというご紹介と、そこから見えてきたこと、課題もありますので、そちらもお伝えできればと思っております。一企業の事例になりますので、皆さんの会社にそのまま当てはまるものでもないと思いますし、きれいなことだけではなくて、裏側はドロドロとしたりしているものとか苦労もありますが、20分でまとめるときれいなところのご紹介で終わってしまう可能性もあるのですが、何か気になることがあれば、その後でご質問いただければと思います。

私の紹介ですが、清水能子と申します。本業はさくらインターネットというITの会社の人事でマネージャーをしておりますが、個人的なパラレルキャリアの活動としては、週末ワークショップデザイナーという形で友人たちとワークショップをやったりしております。

会社のプロフィールも少しご紹介させて頂きたいと思います。さくらインターネット、21年目の会社になります。2015年11月に東証1部に指定替えをしているのですけれども、この上場しているというところも管理する側にとってはちゃんとしっかり管理しなければいけないんじゃないかという固定観念を生むものなのですが、ここは乗り越えてきたという話もさせていただければと思っています。従業員数は単体で400名くらいで、この柔軟な働き方の対象となってくる人数は大体400人規模だとイメージしていただければと思います。社長ですけれども、創業者でありエンジニアであることがポイントであると思います。学生時代に起業しておりますので、まだ年齢としては39歳と若い社長です。コーポレートアイデンティティーをいうものを昨年の年末に明文化しまして、「やりたいことをできるに変える」というメッセージを社内と社外にもお伝えするようにしています。これは、「お客様がやりたいことを私たちのサービスや知識ナレッジなどでできるに変えていきたい」ということと同時に、そのためには「社員自身が一人ひとり自分のやりたいことが実現できる会社にしていけるといいよね」というメッセージにも
なっています。

さくらインターネットを今日初めて見たという方もいらっしゃると思うので、簡単にご紹介させていただきます。BtoCの事業というよりは、BtoB寄りの事業です。PONANZA、最近電脳戦で、将棋で人に勝ったAIということで少し話題を集めましたけれども、このPONANZAというシステムも弊社のサーバー上で動いています。お客様がデータセンターの中にサーバを預けてシステムを動かし、それをインターネット上に配信する、その部分を担っている会社となります。一貫して自社にこだわっているところは、柔軟な働きやすさの導入においてはやりやすかったのかなと思います。

少し歴史的なところのご紹介ですけれども、売上としては一応右肩上がりですが、途中2008年リーマンショック以降伸び悩んだ時期が長くありました。その時代に関しては社員数の伸びというのも極力抑えていました。個人的に一番気になったのは、2015年に何があったかということですね。改めて振返りましてこの2015年のポイント、ここが何か最近の急カーブのターニングポイントになっていそうだぞということと、その後に「さぶりこ」という働き方をまとめて概念化してリリースするということをしたので、その辺り少し紹介したいと思います。

2015年に何が起きていたのかということですが、外部環境としては、皆さんも耳にされたことがあると思いますが、IOTとか人工知能AIと言われるものや、機械学習ディープラーニングというインターネット上の新しいトレンドがあります。弊社はインターネットを利用してデータ配信をしていくお客様を支援している会社になりますので、ここのトレンドは売り上げに影響します。リーマンショック以降の業績が伸び悩んでいる時期が長くなりにつれて、どうにかしなければいけないという危機感が経営の中に高まりまして、非連続の成長を目指すことを明言し、それまで掲げていた目標より随分高い目標が明示されました。それをするにも今のリソースだけではもちろん達成できないということで、人的余裕を作ることも公約したというようなことがこの2015年に起こっておりました。

もう一つですね、社長が2015年にクロス2015というエンジニア1000人くらい集まったイベントがありまして、そこで「エンジニアの幸せな働き方」という講演をした時に、働きやすさと働きがいについて話をしたのですね。具体的に言うと皆さんが感じるモチベーションはこういうところにありますよねといくつか例示をした上で、これを分類すると働きやすさと働きがいに分けられそうだと。青く塗っている方が働きやすさですが、働きやすさは会社が整えるものだけれども、働きがいは個人がそれぞれ自分で追求していくものだというようなお話です。それが結構エンジニアの方にうけまして、インターネットの記事なりました。社長が社内でこれを社員に向けて言ったとか、人事に働きやすさを整えなさいと言ったわけではなく、実は私たちはインターネットでこれを知りました。これを知った時は結構な衝撃を受けまして、働きやすさを整える原動力になったというちょっとした事件でした。この働きやすさと働きがいについては、その後社内でも折に触れて持ち出しています。

また人事ポリシーを決めるワークショップを経営層と一部の人事メンバーとで一緒にやりました。先程の働きやすさを整えていかなければいけないとなった時に、どんな基準で、何を目指して働きやすさを整えるといいのか、単純に働きやすさを整えればいいのかというとそうではないだろうなど、いろんな議論をするうちに、人事だけで進めるのは難しいということで、経営も巻き込んで人事ポリシーを決めるワークショップをしました。具体的には、切り口を25個くらい準備して、その中から弊社にとって重要だと思うものを6個に絞り込んで議論したんですけれども、そのうちの5個については色々意見が分かれたのですが、性善説に立つというところだけはその場にいた全員が、さくらインターネットはこれだよねということで合意ができました。私たち人事としては、性善説に立って働きやすさを考えるという指針を得ることができました。

先程から申し上げている「さぶりこ」とは、Sakura Business and Life Co-creation の頭文字をとっていまして、会社で働くこととプライベートは分断されたものではなくて、お互いに影響し合っていい人生を歩いていけるようにという思いで働き方を概念化したものになっています。
実際には7つの施策をパッケージ化しています。時間に関するものと場所に関するものと 所属に関するものになります。一つ一つは各社さんがやっていらっしゃることとほぼ同じようなことかなと思うのですが、これを出してきた裏側で私たちが考えてきたことですとか、運用上気をつけていることを お伝えできたらいいのかなと思いまとめました。制度化する時に気を付けたことは、先程の人事ポリシーからくる性善説に立つということ。ここをぶらさないということ。最悪のケースを想定して、それを制度に盛り込むということをしなくなりました。何かことが起こったら、起こった時に対処できる自分たちになろうというような方向に考えをシフトすることが出来たと思います。

あと制度より風土ということもあります。人事をやっているとどうしても制度にしたくなりがちなのですが、制度化することで伝えたいメッセージがあるのであれば制度にしなさいと、社長からもよく言われまして、私たちもそこをすごく気を付けています。具体例としまして、まさにパラレルキャリアがここに当てはまると思っておりまして、当社も例にもれず就業規則では副業はNGだったのですが、ただし上司の許可があえればOKだというような玉虫色の就業規則になっていたのですね。特に就業規則を変更しなくても副業ができる状態ではあったのですが、ここに一文あることによって、パラレルキャリアとか副業とか、起業とか、チャレンジするモチベーションにつながらないケースがあるのであれば、メッセージとして外しましょうということになりました。

実際に「さぶりこ」をリリースした後運用上気を付けていることは、どうしても働きやすい環境になると自己判断の裁量が増えていくので、ゆるくなっていったりするので、パフォーマンスが上がっていることが優先だよとか、業務が優先ですよということは伝えています。また、パラレルキャリアとかコワーキングスペースを使う時はコンプライアンスが重要になりますので、コンプライアンス遵守、徹底も大切です。私たち人事が特に気を付けているのは目的の部分でして、制度をリリースするとそれを使ってほしくなりますが、「さぶりこ」を使うことが目的ではなくて、これを使ってよりパフォーマンスを上げるとか、プライベートを充実させるために仕事とうまくバランスを取っていくとか、それぞれ目的はその先にあるということを忘れないようにするということを、気を付けています。
振り返ると、制度化をするときも運用しているときも、対話を重視してきました。制度化する時は社員との対話、経営層との対話を意識しました。また運用上は、リリースした後も社員に活用事例を聞いたり、使い方の相談を受けた時は制度に照らし合わせてできるできないを判断するのではなく、何がしたいのかという根本のところを聞きながら対話をするように心がけています。

今日のテーマがパラレルキャリアですので、パラレルキャリアを切り出してお伝えしますと、パラレルキャリアで目的としているところは3つです。越境学習による個人の成長とか、イノベーションに期待するところは色々な会社さんがおしゃっているところかと思いますし、弊社も目指しているところになります。当社の特徴と思うところは、チャレンジのハードルを下げるという考え方です。特に、社長に起業のチャレンジを促進していきたいという思いがありまして、社長自身が学生時代に起業していますし、スタートアップの会社をよく見ていることもあって、起業して一発で成功するケースは少ないけれども、何回もチャレンジしているうちに成功の確率が高まっていくものだ、という持論を持っています。起業するチャレンジを促進するために会社としてできることとしては、会社に所属することで起業する際の経済的リスクが軽減され、チャレンジもしやすくなるだろうということで、パレレルキャリアを推進しているという、そんな思いがこもったものになっています。

続きましてパラレルキャリアの事例のご紹介になります。いろんな事例はあるんですけれども、特徴的なものを3つ持ってきました。東京でエンジニアをしている者が、実家が富山にあって兼業農家である。
その兼業農家を手伝っているという例です。この方が柔軟な働きやすさというところで重視していることは、時間の融通がきくことでして、新幹線で富山はすぐですので、その移動の時間を休暇にすることがもったいないということで、朝一で移動して、フレックスを使って休暇を使わずに勤務しています。また、農業は天候に左右されますので、富山にいても雨が降った日はちゃんと仕事がしたい、ということでリモートワークで仕事をされています。そういう掛け合わせで使っている例になります。

もう一つ人事で私の部下になりますが、メンタルヘルスの担当者が社外の方向けのピアカウンセラーという形でキャリアカウンセリングをしているという例があります。自分自身が会社で得た労働法等の知識がピアカウンセリングをする時に役に立ったりとか、難しい環境にいる方とお話をする経験が会社の中での対応にも活かされたりということで、パラレルキャリアのよい事例と思っています。三つ目ですけれど、新卒で入ってきたエンジニアが、今国の研究員を嘱託で受けているという例があります。彼に関してはこの制度がなかったら弊社には入社していなかったかもしれません。
また、先程も石山先生のお話にありましたように、パラレルキャリアは何も副業だけでなくて、介護や育児もステークホルダー、いろんな関係者の方がいらっしゃって、その中でうまくやっていかなければいけないとか、あと学びの場というのもパラレルキャリアになるよねとか、あとは地域活動、マンションの理事会などの利害関係が一致しない方々の中でうまく合意をとっていかなければいけないというようなものはパラレルキャリアだなと思っています。何気なくそういう活動に参加するのではなくて、意識して自分の人生をうまく前向きに創っていきましょうというメッセージを込めています。

風土作りのお話ですけれども、制度より風土ということでやっているのですが、風土をどうやって浸透させていくのかということは非常に難しい問題だと思っています。私どもがやってきたことを振り返ってみました。最初からデザインした訳ではないですが、トップからのインプットとしては、社長が意欲的ということもあって、社長自らが発信する機会は比較的多いです。また、アウトプットの場は大事だったなと思っていまして、社員と対話するワークショップをやったり、上司と部下の1on1を定例化して、そこで働き方の話もできるようにしています。また「さぶりこ」という名称を使うことで日常にインストールしやすくなったと感じています。残業しないで早く帰ってくださいと言うのではなく、「さぶりこ」を使って早く帰ろうというと、ちょっと主体性が高まるというか、良いことをしている気分になるというか、そういう雰囲気を作ることは重要だと感じています。

成果の話ですが、ここに関してはまだ半年くらいでして、成果として皆さんにお伝えできることは無いのですが、成果が出るまでには時間がかかることを許容した上で、未来を信じてやっているという段階になります。具体的に数字として体感できたというのは新卒採用の応募数が昨年と比べると増えました。学生が働き方に敏感になっているということもありますし、弊社がそれをわかりやすく打ち出せていたということかと思います。

見えてきた課題、本当に色々ありまして、一番は業務の事情や家庭の事情で使いたいけれど「さぶりこ」を使えない方がいるということ、そして、働きがいの追求をまだ個人任せにしてしまっている部分があります。ここは今後人事制度と絡めて働きがいですとか、生産性ですとかそういったキーワードで取り組んでいきたいなと考えている部分であります。20分というお時間でしたので駆け足でしたけれども、発表をこれで終わらせて頂きたいと思います。どうもありがとうございました。

社員を信じる。なぜ、性善説なのか

石山
清水さん、ありがとうございました。こういうお話をしますと割とよくある反応としましては、これは特別な背景や状況にある会社だからできたんじゃないの、うちでは難しいですねという話があったりしますが、なるべくそういうことにならないようにどんな観点でも良いので何か持ち帰っていただけるようにお話を伺っていきたいと思います。
最初にさくらインターネットさんは社長が学生の時に起業されたということで、ベンチャースピリットがある会社だと思いますが、既に20年おやりになって、しかも成長されて東証一部までのある意味非常に大企業になっている訳です。今のお話を聞きますと、性善説、社員を信じるというところがこのようなことができる大きな出発点だと思うのですけれども、そうはいっても大きな企業になってしまって業務を日々回さなければいけないと中々社員を信じるということに本当のところで踏み切るということは難しいじゃないかという気がいたします。ところが、先程のお話を聞きますと経営層、人事部門でワークショップをやったら、最後全員が一致したのが性善説だったということで、これはすごいなと思ったのですけれども、なぜ皆さん性善説というところで最後そこだけ一致されたのかまずそこをお聞きしたいのですが。

清水
はい、ありがとうございます。その時に参加していた役員、人事に聞いた訳ではないですけれども、おそらく、そもそも信じるタイプの人間が集まっているのだろうと思います。あと、個人的な意見となりますが、信じた方が上手くいくということに賭けたかったということもあるのかなというところもあります。

石山
割とそれまでの間も社員を信じて上手くいくというマネジメントは日常かなり実現されていたのですか。
それともそういうところとそうじゃないところがおありになったのですか。

清水
そういうところとそうじゃないところはありますね。管理しにいった結果失敗したりとか、任せきれていないけど任せた方がいいだろうなという思いを持っていたりとか、そういうものが綯交ぜになって、性善説で行こうということになったと感じています。

石山
ある意味試行錯誤されている中で、むしろそのメッセージを強烈に出したいということがあった。

清水
そうですね。それで2015年に働きがいと働きやすさの話があったのですが、その直後には働きがいの調査というものを始めました。そこで会社に対する信頼という項目があるのですが、この項目のスコアが低くて、社員から信頼を得られていないという結果が数字で出てきたということもあって、これは社員から信頼されるためには、社員を信頼しなければいけないのではないかという流れもありました。

石山
最後の質問になりますが、コーポレートアイデンティティーで「やりたいことをできることに」というふうに定められたと、これもやっぱり性善説と絡んで働きがいを追求していくためには、やりたいことを実現していくということで素晴らしいアイデンティティーだと思いますが、これを作るにあたってトップが勝手に言ったということではなくて会社で作り上げたと聞いていますが、その辺り説明して頂けますか。

清水
ありがとうございます。コーポレートアイデンティティーが決まるまでの間に実は2年くらい期間がかかっているのですが、社員全員にヒアリングして弊社の良いところはどんなところということを洗い出して、その中からキーワードを抽出して、それをもってそのキーワードが当社にとって重要なんじゃないかというものをもってワールドカフェを20人くらいの単位で全27回全社員に向けてやるということをしました。ワールドカフェをやった上で最終的に「やりたいことをできることに変える」という文章を実行委員の方で定めて、それを20周年の時にオープンにしたという形になっています。

石山
ありがとうございます。これもコーポレートアイデンティティー自体を清水さんが直接創った訳ではないですけれども、清水さんは週末ワークショップデザイナーということで、色々おやりになっていたからこそワールドカフェをやって社員の意見を聞くという、正にご自身がパラレルキャリアだったからこそ創りあげられた意見という気が致します。

本日はお忙しいところ誠にありがとうございました。

講演者プロフィール

法政大学大学院 政策創造研究科教授
石山 恒貴 様
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、 法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。 一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境学習、キャリア、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長。

主な論文:Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan, Journal of
Knowledge Management, Vol.20,No.6,2016.
主な著書:『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、2015年、
『組織内専門人材のキャリアと学習』生産性労働情報センタ-、2013年、他

さくらインターネット株式会社 人事部 マネージャー
清水 能子 様
立教大学卒業後、総合リース会社に入社。通信キャリア、外資系製薬会社を経て、 2005年さくらインターネット㈱入社。2011年4月より同社人事部にて人事全般業務のマネジメントに従事。2015年頃より、社員が働くことを通じて幸せを感じられる会社を目指して「働きやすさ」を整備。
今期は「働きやすさ」と「働きがい」の相互作用がテーマ。

さくらインターネット株式会社の会社概要はこちらよりご覧ください。