弓 ちひろ 様
平成27年11月6日(金)、東京ウィメンズプラザにて『働く女性が「キャリアコンサルタント」を上手に活用する方法』と題したセミナーを開催いたしました。
今回は、株式会社キャリアバランス 代表取締役の弓ちひろ様をお招きし、働く女性がキャリアコンサルティングを受ける上でのポイントや、企業内にキャリアコンサルティングを導入することの意義について、お話をお伺いしました。
私のキャリアカウンセリングとの出会い
私は26〜27年ほど企業研修の講師として活動してきました。
全国各地で研修を行っているなかで、管理職研修が主でしたので自分よりもずっと年上の人生の先輩達から「これからの人生どうしたらいいかわからない」というような相談を受けることが多々ありました。
その当時私はまだ20〜30代だったということもあり、最適なアドバイスができずに思い悩む日々が続いていました。
そんなとき、新聞でキャリアカウンセラーのボールズビー博士(※)が来日するという記事を見つけました。
そこで初めて「キャリアカウンセリング」という言葉を知り、もしかしたら相談を受けるというスキルを身につけることができるかもしれないと思い聴講したのがこの世界に入るきっかけでした。
※ジョアン・ボールズビー博士・・・元NCDA(全米キャリア開発協会)会長。日本にキャリアカウンセリングを広めた第一人者。
キャリアカウンセラーが必要とされる時代
講演の聴講をきっかけにキャリアカウンセラーという仕事に興味を持ったのですが、当時の日本にはまだキャリアカウンセリングを体系的に学ぶ学校ができていない時代でした。
後に私がCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)という資格を取得したのは日本マンパワーというすくーる学校ですが、まだキャリアカウンセラーという言葉も職業もあまり一般には知られていない状況の中、私は1期生としてCDAの資格を取得しました。
その後は、キャリアカウンセラーとしての活動と共に、同じようにキャリアカウンセラーを目指される方々を養成する立場として、延べ約1500人のキャリアカウンセラーを世に送り出すことをさせて頂いてきました。
現在、国の施策としては、平成36年度末にキャリアカウンセラーの累積養成数を10万人とすることを数値目標としています。
このことからも、キャリアカウンセラーが必要とされる時代になってきたことが伺えます。では、それはどうしてなのでしょうか。
その理由は、大きく3つあると考えています。
まず一つ目は、経済状況。
団塊の世代の方が活躍した時代の経済は右肩上がりで、一度会社に入れば終身雇用ということで、辞めずに定年まで働き続けるという方が多かった時代です。
それに加えて年功序列という特徴もありました。
昇給・昇格をしていく、ある程度経済的に安定し、目指す道もわかりやすかった時代から、現在は管理職になりたくても、ポストがそうそう空いていません。
管理職になりたいと思っても簡単にはなれない時代になり、目指す道を自分でみつけなければならなくなりました。
二つ目は、少子化です。
女性の初婚の年齢が上がり、出生率は下がりました。そして子どもが生まれたらすぐに仕事に復帰する方が増えてきました。
少子化に伴い子どもの数が減って一人あたりにかける教育費が高くなり、配偶者の昇給があまり見込めないと、社会復帰する女性が多くなったのです。
しかし、正社員として復帰できる方は少なく、派遣やパートという働き方がやはり多くなっています。
自分で選んだ道であればそれで構わないのですが、正社員になれないからと諦めてしまっている方も多いですし、また、復帰できたとしても、今度は仕事と家庭との両立で苦しみ、悩んでしまう方も多いです。
私自身は、キャリアカウンセラーとして、このような様々な事情で、がんばりたいけどがんばれない方々を応援したいと思って、これまで活動してきました。
そして三つ目、私の考える一番の要因になりますが、それは価値観の多様化です。
例えば、現代の会社には、ワークライフバランスを大切にしたい若い世代が増えてきた一方で、仕事が一番と考える世代の方々もまだ多くいらっしゃいます。
その二者の間で価値観が衝突し、そのまま改善できなければ、どちらかが折れないといけなくなる。どちらかが折れてしまう場合も両者が折れてしまう場合もあります。
こういった様々な価値観が混在する場面にも、キャリアカウンセリングが必要になってきます。
キャリアカウンセリングを受けたいと思ったら
では、どこに行けばキャリアカウンセリングが受けられるのか。
ハローワークなどの公的就職支援機関、人材紹介会社などの民間就職支援機関、大学や高校の就職課、企業内のキャリアカウンセリング室など、キャリアカウンセリングは様々な場所で行われています。
特に企業のキャリアカウンセリング室は大企業を中心に増加しており、中小企業では5、6社が集まってカウンセラー1人を抱えているケースもあります。
キャリアカウンセリングを受けたいと思っている方から、事前に準備することはあるのかと質問されることがあります。
履歴書やエントリーシートを見てほしいということであればお持ちいただく必要がありますが、それ以外であれば、基本的には準備していただくことは特にありません。
悩みを相談する場ではありますが、ご自身で何に悩んでいるのかわからなくてもいいのです。
なんだかモヤモヤしていたり、将来に対する漠然とした不安があるという状態でもお越し頂ければ、カウンセリングを通して一緒に頭と心を整理していきながら、その原因や対策を探していくことができます。
キャリアカウンセリングで「できること」と「できないこと」
ただ、キャリアカウンセリングで相談に来られる方(以下、「クライエント」)の望みの全てを叶えて差し上げられるわけではない、ということをお話ししなければなりません。
大括りではありますが、キャリアカウンセリングでできることとできないことをご説明したいと思います。
まず、できることは主に4つあります。
(1)自己分析
みなさん自分らしく生きたい、とおっしゃる方が多いのですが、その「自分らしく」というのがどういう状態、または、何を指すのか、明確にするのはとても難しいものです。
「何にこだわって生きていますか?」「何を大切に思っていますか?」と聞かれるとなかなか答えられなくなるものです。
難しいものではありますが、自分自身のことがわからないとどうしても軸がぶれてしまいます。
私どもでは、クライエントが自分の軸を見つけるお手伝いをすることができます。
(2)職務経歴書、エントリーシートの添削
職務経歴書といわれる、転職をするときに提出する書類や、就職活動生が書くエントリーシートの書き方をアドバイスすることができます。
(3)キャリアプランの設定
自分の目標くらい自分で立てられるじゃないかと思われるかもしれません。
自分らしい生き方や働き方につながっていくように考えたり、目標を設定したりすることは、案外難しいものです。
私のクライエントには、自分への誕生日プレゼントとして、毎年ご自身の誕生日に私のカウンセリングを受けにきてくださる方もいらっしゃいます。
クライエントと一緒に、今年一年を振り返り、来年の目標を設定するお手伝いをします。
(4)アセスメントツールの使用
自己分析の話がありましたが、キャリアカウンセラーはカウンセリングの際に、自己の測定したい部分を数値化できるアセスメントツールというものを使用することもあります。
様々な種類のアセスメントツールを使用することで客観的に自分を見つめ直すことができるのです。
私たちも「キャリアトレジャー」という独自のアセスメントツールを利用することで、より短時間でキャリアプランまで作り上げられるように支援しています。
キャリアトレジャー※:漠然とした人生観・仕事観を言語化するためのアセスメントツールおよびそれを利用したキャリアカウンセリングのプロセス
(※株式会社キャリアバランスの登録商標です。)
逆に、我々がカウンセリングでできないことは、治療です。
例えば、精神疾患をお持ちの方が転職したいと仰ったら、もちろん支援することはできます。
しかし、そういった方々にお薬を処方することはもちろんできませんし、診断をすることもできません。
また、職業斡旋については許可を得ていない場合は、就職先や転職先を紹介することはできないということをご理解いただければと思います。
キャリアカウンセリングを受けるメリット
キャリアカウンセリングを受けるメリットは色々あります。
まず、クライエントはキャリアカウンセラーに話をするだけで、悩みや不安がいっぱいで混乱している自分の頭の中を整理することができます。
答えは全てクライエントの中にすでにあると言われています。
私は、キャリアカウンセラーの仕事は、そのクライエントの中にあるものを引き出すことだと考えています。
そして、語るという行為によって心の中にたまっていたもの吐き出し、浄化することもできます。
また、より実践的なお話をすると、現在の雇用市場の動向や職業情報など、キャリアカウンセラーから専門的なアドバイスを受けられるという点や、アセスメントツールを使用したりしながら、自己分析や自己理解を深めていったり、キャリアプランの設定ができるという点もメリットと言えるでしょう。
キャリアカウンセリングを企業内に導入する意義
キャリアカウンセリングを取り入れる単位は個人に限らず、先ほども少しお話した通り、会社内にキャリアカウンセリング室を設置する企業も増えています。
企業として取り入れる目的の一つには、職場の活性化はもちろんのこと、社員のメンタルヘルス不調の予防や産業医や外部医療への受診をすすめることができるということもあります。
社員のモチベーションが低くても、管理職は自身の仕事で忙しく、部下のケアを細かくはしきれないというお話を多く耳にします。
キャリアカウンセラーを配置し日常的なケアを行うことで、社員の精神面での健康を支援することができます。
さらに、上司との面談へ向けて、キャリアカウンセラーが社員のキャリアプランの設定を手助けするなど、社員の成長支援にも効果があります。
このように、相談の専門家であるキャリアカウンセラーに、社員からの相談については任せていく、という企業が多く見られるようになりました。
また、企業がキャリアカウンセリング室を立ち上げる別の目的として、女性支援が挙げられることもあります。
女性が多く活躍するようになった昨今、産休や育休などの制度が設けられてはいますが、家事・育児と仕事の両立で悩む女性はまだまだ多くいらっしゃいます。
そのような女性の上司の大半が男性ということもあり、うまく対応できず残念ながら退職をしてしまう、あるいは、モチベーションを落としてしまう、ということも現実としては起こっています。
そのような理由からカウンセリング室を設置するケースもあり、これは、多様な働き方や価値観を受け入れる試み「ダイバーシティ推進」の一環でもあると言えるでしょう。
女性が働きやすい社会を目指して
日本ではまだまだ管理職の女性比率が低く10%程度と先進諸外国と比べ、かなり低くなっています。
日本の女性のもう一つの特徴は、学歴が高いということです。大学に行く方も増えてきて、学歴レベルは他の先進国に引けを取らないにも関わらず、政治家や経営者などの社会の指導的な層の女性は、日本は極端に少なく、活躍が質的に違うのです。
そのようなこともあって、これまで専門性を高めてきた日本の女性にもっと活躍してもらうためにも、国が女性管理職30%超えを目指すという目標を掲げてきたのではないかと推察されます。
このように、日本には優秀な女性が多くいながら、国や会社の制度がまだまだ整っていないことから両立に苦しみ、会社を辞めるという決断を余儀なくされる方もいらっしゃいます。
私の著書「無理しないほうがうまくいく! ナチュラル・キャリア実践術」では、両立を苦しめる4つの要因を自分なりに上手くコントロールすることの重要性を提案してきました。
時間コントロール※:時間に振り回されない
環境コントロール※:周囲の言葉や態度に振り回されない
気持ちコントロール※:自分の気持ちに振り回されない
マネーコントロール※:お金に振り回されない
※株式会社キャリアバランスの登録商標です。
日本の女性には、結婚や出産を経ても、より多くの方に働き続けてほしいと考えています。
そして、他の誰でもない自分らしくイキイキした人生やキャリアを歩んで頂きたいと願っています。
そのために私はこれからも一人のキャリアカウンセラーとして、働く女性や、多様な価値観を一人一人の個人や組織が受け入れられるように支援する活動を行っていきたいと考えています。
講演者プロフィール
厚生労働省指定キャリアコンサルタント能力評価試験CDA第一期合格
企業、行政、大学などでキャリアカウンセリングやキャリア開発系のプログラム開発・管理職研修の講師を務めるほか、企業の社内キャリアカウンセラーのスーパーバイザーとして、様々な業種の企業に向けたスーパーバイズを行っている。
ダイバーシティ推進のためのコンサルティング・研修、カウンセリング室の設置支援・スーパーバイズ、メンタルヘルス対策支援、大学に向けたキャリア教育支援に重点をおいた活動をしている。
著書に 「無理しないほうがうまくいく!ナチュラルキャリア実践術」(朝日新聞出版)
※株式会社キャリアバランスのホームページはこちら