高橋 JAD事務局の高橋と申します。よろしくお願い致します。
私はニチイ学館からJADに出向しておりまして、今日はニチイ学館の社員という立場からお話しできればと思います。
ニチイ学館は創業48年を迎える企業で、介護事業のほか、医療、保育、語学事業も行っており、全国規模で展開しています。近年は中国への事業展開も進めています。
売上高は2015年3月期で2,718億円、従業員数は2015年3月時点で社員16,805名、業務社員79,785名です。
女性の管理職比率ですが、課長職以上の比率は過去3年すべて7割を超えています。2015年3月時点の管理職数は4,094名、うち女性が3,186名となっています。
石山 高橋部長にはニチイ学館の男性社員代表として、女性が活躍する会社の男性はどういったお気持ちなのか、後ほど聞いてみたいと思います。
さて、今回はニチイ学館執行役員の遠藤様にお越し頂きました。まずは遠藤様が執行役員という立場になられるまでの経緯をお伺いできればと思います。
遠藤 私がニチイ学館に入ったのは30年近く前になりますが、当時は専業主婦でした。
子供が小学校に上がり、育児の手が離れたところで、お小遣い稼ぎがてら働きたいと思い、医療事務の勉強を始めました。
その後パート社員としてニチイ学館に入社しました。
当時は手書きのレセプト作成の仕事で、月末月初の10日間くらい仕事をしていました。契約社員として5年ほど働いていました。
当時は支店長も全員女性でしたが、「パートもいいけど、40歳の声を聴いたらしっかり働いてみてもいいんじゃないですか」と声をかけて頂きました。
その言葉に背中を押してもらう形で、支店の内勤としてフルタイムになりました。
その後は営業部長、人事部長、経営管理室長、教育事業部長などの仕事を担当させて頂き、今は執行役員となっています。
当時、やはり一介の主婦が支店に入って責任のある仕事を任せていただくことには迷いもありました。
ですが、支店長も主婦の方で、その方への憧れもありまして、その方がお声をかけてくださるのであれば思い切ってやってみようと思いました。
石山 専業主婦だった遠藤さんがパート、契約社員から始まり、マネージャーになり役員になっていかれたわけですが、そこには抜擢といいますか実力をきちんと見るということがあったのだと思います。
あわせて、医療事務の仕事において、そこにコミュニティ的な雰囲気があり、それが大企業になってもうまく続いているのではないかとも感じています。
どういったコミュニティがあり、それがニチイ学館の組織文化として繋がっているか、教えていただけますでしょうか。
遠藤 もともとはレセプト作成の現場から始まっているのですが、当時はチーフを含めた4-5人のグループで医療機関に入って働いていました。
スタッフはみなさん主婦でしたので、生活感がそこにあったといいいますか、いろいろ家庭のことを話す機会が多かったですね。
お昼ごはんの時に自分の子供がどうとか、家庭の様子をオープンに話すことができる関係でした。
チーフはお子さんがすでに大きかったので、子育てについて教えてもらったり相談の場にもなったりしました。
仕事プラス、親として、主婦として学ぶことが多く、そこでお互いに助け合う、という関係でした。
ですので、「受験なんです」「試験なんです」「子供が具合悪いんです」というと、「休んでいいよ」と。
10日間と期限が決められている仕事ですので、休んだ分は他の方がフォローをしないといけないという厳しい現場ではありました。
ですが、助け合いの言葉をかけてもらって抵抗なく休ませてもらえました。自分も逆の立場になったときは「休んでいいよ」と言える。
それが仲間の中で当たり前に根付いていたんじゃないかと思います。
石山 厳しい現場でも主婦の助け合いの文化が継続しているということですが、これは不思議な話で、組織の最初の段階ではあったとしても、組織が大きくなって大企業になるとその雰囲気が継続するのは難しいのでないかと思うのです。
先ほど遠藤さんのお話に、支店長が背中を押してくれてマネージャーになったという話がありましたが、ニチイ学館の組織文化の継続に重要な役割を果たしているのでないかと推測しています。
ニチイ学館さんの支店長の役割を教えていただけますか。
遠藤 ニチイ学館は医療事務をはじめとした地域に根差したビジネスをしていますので、やはり支店長の力が重要視されています。
会社の方針やルールはもちろんありますが、その中で各地の特徴を生かした現場での裁量権を持たされています。
支店長のアイディアや能力に結果が左右される仕組みですので、支店長を重視する文化は残っていますね。
石山 夫の転勤で妻が離職せざるを得ないという問題がありますが、最近、先進的な企業ではそれに対応する制度が作られ、注目されています。
事前にお伺いした話では、ニチイ学館では制度ではなく、支店長どうしのやりとりで対応されている、それも長年そのような形で行っているというお話でしたね。
遠藤 そうですね。スタッフから「主人が転勤なんですが、やめないといけませんか。」という相談があれば、引っ越し先のエリアの支店長に電話をかけて「すごくいい子なんだけどどうかしら」と。
「ああいいわよ、経験者だったら大歓迎よ」というやりとりになりますね。
全国に病院やクリニックとの9,000件に及ぶ契約がありますし、介護や保育の仕事も全国各地にあることも大きいとは思いますが、当社ではこうした動きがすんなりと、当たり前のこととして行われています。
石山 これは一例だと思いますが、制度でこうした動きを担保するのではなく、支店長の裁量でできてしまうわけです。
これがニチイ学館の女性活躍の秘密だと思いますが、逆に言えば、制度で運用していないために「女性活躍推進」のランキングとしては(施策面のポイントが低くなるため)上位には上がってこない、という逆転現象が起きているわけです。