片山 この図表は当社で「仕事能力」について説明するときに使用しているのですが、自分の態度や価値観、あるいは自分の好きな領域といった大本となるところがしっかりしていることが大切だという内容です。
齊藤 私も30代で上司に言われたのは、最後は人間力だということでした。
「五感六力」(正義感・使命感・責任感・危機感・安心感。知識力・説得力・行動力・包容力・判断力・忍耐力)という、基礎的な力を磨くことが人間力だと。
仕事の力はその上に乗っかるものなので、まずは土台を磨かないといけないと。
人間としてのあるべき姿を磨く。社会人としてよりも人間として磨く。
片山 私は企業内研修で、「あぶなっかしいキャリア形成」という話をします。
簡単にいうと、自分のキャリア形成を考えることなく、いま目の前の仕事を片付けるために、必要なものだけを習得して、その成果を得たらおしまい。
あとはこの繰り返しで、自分のキャリアや興味関心とは無関係に目前の仕事をこなすだけの、その場しのぎの勉強や経験を次々に繰り返す仕事の仕方ですね。
30代・40代という忙しい時期には、さらにその傾向が強くなっていきます。
そして、40代・50代になって、「あなたの専門は何ですか?」「あなたは何ができる人なの?」と聞かれたときに、自分は何を目指して仕事をしてきたのか、回答できないのです。
自分のキャリアの蓄積を意識したことがない、何のプロとも名乗れない。
目前のことを片付けながら、少しは将来のことを考え、自分の好きな領域、専門の領域を意識した経験の蓄積や学びを忘れずにやっていく。
その土台の上で、いま自分がやっていることに自分なりの意味を見出しておこう、という話をしています。
齊藤 どこかで立ち止まって考えることが必要なんですね。
仕事をしていると目の前に課題があるから立ち止まることも振り返る時間もない。
すると、ある日自分は何をやってきたのだろう、なぜ自分はこんな仕事をしているのか、と気づくわけです。
片山 目先だけの勉強の繰り返しで50代後半まで行くと、自分の専門意識も持てず、60歳以降の仕事と言われても何ができるのかが見えない、という方が非常に多いのです。
だから、時々、自分のことを振り返って、将来のことも考えながらやっていくことが必要だと思うのです。
齊藤 今の仕事において、自分が何を期待されているのか。
課長なら課長のポジションを与えられたときに何を期待されているのか、といったことを冷静に分析する習慣を身に着けてほしいですね。
片山 ところで、良い上司の条件とは何だとお考えですか。
齊藤 私はやはり、部下を育てられる上司が欲しいですね。
組織人としては、若い人を育てられることが最高の役割じゃないですかね。
片山 そうですね。ところが、目標管理制度の影響もあり、人材育成とはいいながら実は優先順位として後回しにされてしまうことが多いのです。
学びにおいても、目標のためだけの勉強をその場限りでやる、ということになりがちです。
自分が学びぬいたことがある上司は部下にも学び方を教えてあげられますが、上司自身が貧弱な学習論しかもっていないので部下に教えてあげられない、ということが増えています。
齊藤 最終的に、企業の業績はそこにいる人の力の出し方で変わってきます。
終身雇用も崩壊し労働力が減るなかで、強い組織は人を育てられる組織ですし、そういう企業に人が集まります。
人を育てることを組織の中で評価軸としてもっていないと、人を育てられる人材は出てこないでしょう。