新井 シニア世代のキャリアに関して、お打合せの際に、「これからは『島耕作』より『釣りバカ日誌の浜ちゃん』だ」ということを片山さんが仰っていたのですが、もう少し詳しくお聞かせください。
片山 入社してから最初に目指すのは「せめてなりたや課長に」というのが15年くらいありますよね。
この課長のイメージがまさに島耕作です。次の45から50歳で部長を目指すわけですが、ここで浜ちゃんを目指すと脱落していきます。
結局、キャリアの上り調子の時には、島耕作らしき人材の方が、人材として有能ですし、人を引っ張るリーダーシップがあるというカッコよさがあります。
しかし、50代を迎え、上りが終わって横ばい・下り坂になっていくと、役職返上・離脱があり、それでもしっかり仕事をしていかないといけなくなります。
そのときに上級管理職のような島耕作気分が良い方向に作用するかというと必ずしもそうではない。
新井 職場がみんな島耕作だったら大変ですよ(笑)。
片山 そうですね、しんどい組織になりますね(笑)。1つの職場にリーダーは二人いらない、ということになるわけです。
そうなると、リーダーだった人がフォロワーに回るべき時が来るのですが、この切替えがなかなか難しい。
私が研修でお話しているのは、段階的に、いま島耕作が100%の人は、浜ちゃんを20%、30%入れていきましょうと。
役職定年を経て再雇用されるころには、浜ちゃん50%かそれ以上にしていくことを目指しましょうという話をしています。
要は、一緒にいて楽しい人、面白い人、励みになる人の方がいいんですね。
一緒にいてネジを巻く人、叱咤激励する人は組織の中に1人いればいいんです。ネジ巻きだらけの人の組織って変ですよね。
新井 これから現場の最前線のマネジメントって、島耕作ではだめじゃないかという議論が出ています。
これまでは会社からのご褒美は1つの価値観でやってきました。お金とポストですよね。
しかし、これからは日本も変わっていくなかで、女性の活躍や再雇用の社員などいろいろな立場の人材がいるわけです。
こうした中で、例えば育児と仕事を両立させている女性の中には、上位のポストを目指すよりもキャリアを横に展開しようとする方もいます。
このように同じ職場で働く社員の価値観がますます多様化する中では旧来のリーダー像ではダメなのではないか、と言う話が出ていますね。
片山 先ほどの島耕作の話は、組織のヒエラルキー・階層がしっかりしていて、その階層のリーダーになるというイメージですね。
しかし、いまは情報を駆使して、それを自分たちの経営・仕事情報に変えていき、現場で活用していくことがビジネスのあり方になっている。
そんな中で、ネットワークのキーマンになる人、仕事と仕事、人と人、人と組織を結び付けていく人が、これからの役職者なんだと思います。
それは「ネットワーカー」なんですよね。
ヒエラルキーの上から下に向かって正しいことをやらせるのではなく、みんなの知恵を集めてきて最良の方法を議論できる人が、その組織にとって良い結論を出せるんですよね。
新井 そうなると、ネジを巻くより、楽しい感じの人の方がいいですよね。
片山 そうですね。「俺も楽しいけどみんなも楽しいアイディア出してよ」という雰囲気のリーダーがこれから求められるでしょうね。
新井 これからはネジを巻いても反応しない人も出てくるでしょうしね。
片山 ほめ方と叱り方は本当に難しくなってきますね。「がんばれ」では現場を鼓舞することはできない。「バカやろう」ではパワハラにされる・・・。
新井 価値観の狭間というところで、これからのマネジメントでは、企業戦士という価値観を表に出したらアウトになりますね。
でも上の人はバリバリその価値観で育っているから、温度差がますます出てきそうです。
片山 仕事を楽しむ人、という仕事人のあり方。
仕事をやっていて楽しい、ということが、キャリアの下降期になっても目の前の仕事を楽しむという仕事の見つけ方ですね。
新井 ネットワーカーというとフリーランス、プロジェクト形式にも関わりそうですが、ピータードラッカーも言っている「パラレルキャリア」という考えにもつながりますよね。
大企業神話ではひとつの会社に働き続けるということでしたが、日本ではまだパラレルキャリアの考え方は浸透していっていません。
諸外国では職業人としてのキャリアから離脱する、例えば育児に専念するであったり、大学に入り直すであったり、ということも当たり前のようになされているのですが、日本ではキャリアからの脱落という捉えられ方をします。
パラレルキャリアを阻害するものにはどんなものがあると思いますか?
片山 パラレルキャリアはドラッカーが唱えた考え方で、「本業」以外に自分の能力や可能性としてやれることをパラレルにやってみる時代が来るよ、という意味合いで出されました。
この考えが普及していないのは、一つは普及を好まない企業体質があるでしょう。
一点集中主義が成功の秘訣とか美風とされ、社内の風土として、2足のわらじ仕事を嫌う、社員の副業が無規制に行われることを良しとしない。
社員もそれを知っているので、就業規則に副業禁止があれば二の足を踏んでしまいます。
新井 一部の企業では兼業や副業を規制しないケースも出ていますが、日本の伝統的な大企業では、雰囲気的にまだ難しいですよね。
片山 建前では社員の多様な働き方を認める、とパラレルキャリアをOKとしている企業でも、実際にパラレルキャリアで活動している人を見ると「アイツは変わっている」「何考えているのか」「上(管理職)は望んでいないのだろう」と言われてしまいます。
今の仕事に熱中している社員からみると、よく「そんな余裕がよくあるな」「売上も上がっていないのに、よくそんなことに時間を使っていられるな」と。
新井 みんなが集まって飲んでいて人事の話で盛り上がっているのに、興味を持たない人がいると違和感を覚える人もいますしね。
片山 やはり集団主義のダイナミズムというものが、本人の一歩前に進むという気持ちをなえさせる、ということはどの会社にもありますね。
規定がなかったとしても心に縛りを感じてしまう、というのはあります。
新井 女性に活躍してほしいということに対しても、特有の縛りというか働きづらさも出てきそうですね。
ちなみに片山様の、パラレルキャリア的なご活動はいかがでしょうか。
「高年齢者活躍協議会」等でのご講演や交流会活動もされているそうですが。
片山 パラレルキャリアでいうと、そもそも自分にやってみたいことがあるのか。会社や制度の問題ではなく、本業も一生懸命にやっておきながら、これは絶対にやっておきたい、ということが心にあるのか、ということが鍵を握ります。
私の場合は、50代を輝かせるということがライフワークとしてある中で、仕事もライフワークですし、こうした講演活動も自分のライフワークだと理解しています。
「高年齢者活躍協議会」は、カウンセラー仲間から誘われて活動を始めました。
まあ、楽しい生涯現役人生の応援団をやっていたいんですね。
新井 まだまだお伺いしたいお話はあるのですが、また改めてお伺いできればと思います。ありがとうございました。
片山 ありがとうございました。
※インタビューの様子は、
株式会社アジア・ひと・しくみ研究所のホームページからお聴きいただけます。