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【厚生労働省セミナー】
教育事業者へのナレッジ

講演録【職業能力開発総合大学校】民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン

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厚生労働省ガイドラインの内容と
活用方法について  


講演者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
職業能力開発総合大学校 能力開発専門学科
助教 松本 和重 様
(2013年4月掲載)

平成25年1月22日(火)、「平成24年度 第3回能力開発カレッジ」を中野サンプラザで開催しました。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 能力開発専門学科 助教 松本 和重様による講演『厚生労働省ガイドラインの内容と活用方法について』の模様をレポートいたします。

「ISO29990」に近い簡易ツールとして策定されたガイドライン

今日は、厚生労働省から出ている「民間教育訓練期間における職業訓練サービスガイドライン」(以下、ガイドラインと略します)の概要と活用方法についてお伝えしたいと思います。

職業訓練について、皆様はどのように感じていらっしゃるでしょうか。
職業訓練サービスは「仕事をとても意識している」という話をよく聞きます。
私は、「(ある具体的な)仕事ができる」ことを目標としている点が、一般的な教育、学習支援サービスと大きく違うところだと思っています。
職業訓練サービスは、たとえれば、入口と出口のあるトンネルです。入口と出口の間にあるトンネルは、皆様が実施している職業訓練コースです。
入口に立っている受講者は、まだ仕事ができませんが、このトンネルを通って出口に立つ時には訓練目標として設定した「仕事ができる」状態になっているといった具合です。
これを職業訓練の基本形として以降の説明を聞いていただければと思います。

ところで、年末の選挙で職業訓練という言葉を何度も耳にされませんでしたか。
そこでは、職業能力機会に恵まれなかった若者や職場復帰を目指す女性のための“職業訓練”のように、職業訓練は社会保障として語られていました。
職業訓練には雇用支援と生産性向上への期待が寄せられています。

そのような中、職業訓練サービスのガイドラインが示されました。
離職者訓練は国のセーフティーネットとして位置づけられています。
つまり、再就職の支援です。
現在、その7割以上が民間の教育訓練関連機関に委託・実施されています。 

離職者訓練の他に求職者支援訓練という失業給付が得られない方への職業訓練サービスも実施されています。
これはわが国の第二のセーフティーネットとして位置づけられているものです。
求職者支援訓練はすべて、民間の教育訓練機関に委託・実施されています。
民間教育訓練機関は、国の職業訓練において大きな役割を担っているといえます。

職業訓練サービスの質を保証するためには、2010年9月に発行された非公式学習・訓練サービス事業者を対象とした国際規格である「ISO29990」を活用する方法がありますが、「ISO29990」の認証を取るには少なからず費用がかかります。厚生労働省は自発的な職業訓練の質保証・向上を取り組みやすくするために、おおよそのチェックができるような簡易ツールとしてガイドラインを開発し、2011年12月に公開しました。

ガイドラインの第1章・第2章は、ガイドラインの位置づけ・定義が書いてあり、第3章には職業訓練サービスはどのようにしたらいいのか、第4章には教育訓練のマネジメントはどうしたらいいのかという内容が書かれてあります。
このガイドラインには「ISO29990」の基本的要求事項に似た「指針」が職業訓練サービスに関して13個、教育訓練のマネジメントに関して12個設けられています。
この指針の1つを見てみると
“民間教育訓練機関は、質の良い職業訓練サービスを設計又は開発して提供するに当たり、職業訓練サービスに関する以下のニーズ等の把握等を行う。(1) 経済及び雇用失業情勢、産業構造等の社会動向の把握・・・”
と書かれています。

ガイドラインでは、指針の具体的取り組み方法を「指針の補足説明」に記載していますが、例示であって指針に対する取り組み方法を定めているものではありません。
そのため「社会動向の把握」に関して言えば、指針の補足説明にある“ハローワーク等の統計情報”でなくてもよいのです。
ですからガイドラインの指針の活用方法は、それらを「実施しているか」、それぞれの事業所の訓練コースにおいて「機能しているか」といった2点からチェックするかたちとなるわけです。

自社の職業訓練コースの課題解決のために活用する

ガイドラインの第3章 職業訓練サービスは、訓練ニーズの把握から始まり、訓練カリキュラムの設計、訓練環境の整備、訓練の実施、モニタリング、そして評価までが書かれています。
モニタリングが入っている点には違和感を覚える方がいらっしゃるかもしれません。ガイドラインは、モニタリングの導入を求めているのです。
あらかじめ職業訓練の様子をモニタリングすることを決めるとともに、モニタリング結果を文書にまとめ、振り返り、改善を行うものと述べています。
ガイドラインは、業務プロセスの順に記述されているのです。

ガイドラインに合うようにしていくことでより良い職業訓練になっていくだろうと思いますが、単にガイドラインに合わせるだけでは、苦しくなってしまうことが生じがちです。
どういうことかと申しますと、ガイドラインに合致していることを示すべく書類を労力かけて用意しながら、一方でそれとは異なる内部スタッフのやりやすい方法を実施してしまうというダブルスタンダードが生じがちだということです。
そうなっては、ガイドラインは機能していないといえるでしょう。

ですから、私がお勧めするのは、ガイドライン利用の出発点を「ガイドラインに合うようにする」ではなく、「自社の職業訓練コースの運営上の課題解決のためにガイドラインを活用する」にすることです。
たとえば、「職業訓練の運営に関する後継者育成をする」、あるいは「苦情を少なくする」を出発点にガイドラインを活用するということです。

「目的-目標-訓練内容-評価-実施体制」の整合性を問う

今日はコンパクトにお話をお伝えしたいと考えています。
ガイドラインの中のある一つの内容を通して活用方法について説明してきたいと思います。

それは「カリキュラムの作成」の所です。
どの分野の教育訓練のスタッフにおいても、カリキュラムの作成は非常に重要な部分ではないでしょうか。
カリキュラム作成に関する指針は、ガイドラインの第3章 3.2.3にあります。併せて、ガイドラインと一緒に示されている自己診断表というチェックリストにもこれに関するものがあります。
それは、“職業訓練サービスの目的又は目標を設定し、それに沿った詳細を決定していますか?”です。
皆様はこの自己診断項目に対し「実施している」と答えられるでしょうか。これは他の自己診断項目よりひときわ抽象的な表現のため、戸惑うかもしれません。

このような自己診断項目を含むガイドラインを活用していくためには、もう一歩踏み込む必要があります。
どのように踏み込むかといいますと、整合性が取れているか問うという形で踏み込むのです。

整合性を問う視点は大きく2つあります。1つ目は、「目的-目標-訓練内容-評価-実施体制」の整合性です。職業訓練コースには目的と目標があります。
離職者訓練の場合、目的は再就職ということになります。
この目的のために、たとえば、4ヶ月の訓練でここまで到達できるようにしていこうとしたもの、それが目標です。
職業訓練コースのゴールです。
この目的・目標に沿った訓練内容は、展開されているコースのカリキュラムのはずですが、どうでしょうか。

また、目的・目標達成のために設けられたテストは受講生にとって適切な評価でしょうか。
実施体制はどうでしょうか。
受講生募集の際に示した通りなのか、「目的-目標-訓練内容-評価-実施体制」が一貫しているか、という視点で見直すと“それに沿った詳細”についてじっくりチェックできると思います。

設計したときに思い描いたことと、実際との整合性を問う

整合性を問う視点の2つ目は、「設計した時に思い描いたことと、実際との整合性」です。

職業訓練は、「仕事ができる」を目指しています。
たとえば電気工事士を目指す訓練と言いながら、面白おかしいだけの実技なしの授業にしてしまっては、楽しいけど作業ができるようにはなりません。
設計したときに思い描いた目標に到達しない訓練になってしまいます。

これはカリキュラムに不具合がある場合にも生じます。
カリキュラムを考えるときに大事なのは、スコープとシーケンスです。
つまり、範囲と順序の面から科目の配置を考えるということです。

職業訓練コースは限られた期間の中での実施となりますから、目指す仕事のあらゆる要素をカリキュラムに取り込むことはできません。
そのため、訓練を設計するときに範囲を決めたはずです。
その範囲とカリキュラムに配置した科目、実施している内
容の整合性はとれているでしょうか。
また、科目の順序に関しては、原則的に簡単なものから難しいものに並んだ方が、受講生にとって負担が軽く、学びやすいものです。
設計時に思い描いた訓練目標に到達するような科目の順序になっているかでしょうか。
受講生が目標達成できるために十分な実技が配置されているかという点ではどうでしょうか。

いくつかの科目で修得した複数の能力を発揮する場面があるかを問うことも大切です。
職業訓練カリキュラムの設計時に思い描いたことと比較してみれば、自己診断項目の“それに沿った詳細”についても、いくつかの視点からチェックできます。

このように2つの面から整合性を問うことで、自己診断項目は、様々なことを包含したチェック項目として活用できるようになろうかと思います。

ガイドラインは職業訓練の質保証・向上の「仕組みづくり」

ガイドラインは、指針や自己診断項目を使って自らの職業訓練サービスをチェックできるだけでなく、特定個人のノウハウに依存しない職業訓練のマネジメントシステムという仕組みづくりを目指しています。
そのため、組織的な継続的改善の仕組みとしてPDCAサイクルを導入するように述べています。
PDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(改善)のことです。

ここでは、職業訓練サービスに関する設計から実行・評価に至るプロセスをもとに質保証・向上のための改善の設計へと繋がるサイクルを意味します。
ここで重要なことは、それぞれの段階で文書化することです。ニーズ把握のために収集したもの、考えたこと、お客様からいただいた内容、モニタリングした結果等を証拠として文書にまとめておくということです。
また、内部監査も継続的改善の仕組みとして重要です。内部監査は、簡潔に言えば、自分たちがしようと決めたことがしっかりできているか、直接の業務担当者以外の人がチェックするものです。
他のモニタリングと合わせて多視点でチェックするわけです。

このようにガイドラインの中には、文書化や内部監査を伴う職業訓練の組織的な継続的改善の仕組みづくりを目指すことが入っているのです。
皆様の事情に応じて作られる継続的改善の仕組みは、職業訓練サービスをより適切なニーズ把握・職業訓練サービスの設計・実施・モニタリング・評価をするものにし、魅力の向上、訓練にマッチした意欲の高い受講生の集客、より良い就職の実現、というような好循環を生んでいくことと思います。

いかがでしたでしょうか。
これまでの説明により、ガイドラインの活用方法のイメージをつかめましたでしょうか。
皆様の職業訓練の質保証・向上のきっかけになれば幸いです。
ありがとうございました。

講演者プロフィール

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
職業能力開発総合大学校 能力開発専門学科
助教 松本 和重 様